
[su_box title=”簡単なキャラクター紹介” box_color=”#2fa39f”]

乙女ちゃん。走ることが大好きな陸上長距離専攻の高校1年生ランナー。
少し気が早いけど、今年のクリスマスプレゼントは心拍計付き腕時計をご所望の模様。

美幸ちゃん。乙女ちゃんと同級生の初心者ランナー。
少し気が早いけど、今年のクリスマスプレゼントは現ナマを所望みたい…

乙女ちゃんと美幸ちゃんを指導するコーチ(大学4年生)。
毎年クリスマスが近づくとリア充が目に入って憂鬱になる、いわゆる「12月病」なる病にかかってしまうらしい。
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あらすじ
前回のペース走の練習で、自分にとって効率的なペースを心拍数を元に調べる事を学んだ乙女と美幸。
そんな2人であったが、今日の練習はコーチが通っている大学にお邪魔し、研究室にある心拍計付き腕時計(ハートレートモニター)とトレッドミルを使っての本格的な練習…もといコーチによってトレッドミルの上を走らされ、実験対象にされてしまうのであった…二人の運命やいかに!

今日は心拍計とトレッドミルを使って練習するんですよね!
とっても楽しみです!

練習というよりは「実験」といった方がええかもね。
心拍計は1つしかないから、一人づつトレッドミルの上を走ってもらうで。

…あれ、この心拍計、手首で心拍数が分かるやつじゃないんですね?

すまんな、研究室には旧モデルのしかないんや…でも3万近くしたからええもんには変わりあらへん。

まぁ、腕につけるだけで心拍数が分かるタイプも買いたいのはやまやまやけど、最近研究費が削られて懐が厳しいって教授が愚痴っててねぇ…(汗)

世知辛い世の中どすなぁ…。

国の教育関連予算の低さをこういうところで感じるとは…

そんで、あんたらどっちが先にやるんや?

私は後でええで。
乙女は心拍計使いたがってやろ?

せやったらお言葉に甘えて、私からやります!

ほなら乙女?
まずは脱いで?

…このフレーズ、この前スパイク買いに行ったときにも聞きましたよ!
「靴」を脱いでっていうオチですか?

残~念!
シャツを脱いでって意味でした~。

…靴じゃなくてシャツ!?
上半身丸出しやないですか!

心拍数図るためには胸バンドをつけるなあかんから、脱がへんとあかんがな~
胸バンドは直接肌に付けへんと反応せんから、私が付けてあげるで!

私一人でやるんで、はよ胸バンド貸してください!
…あと、コーチは着替えとるとこ覗かないでくださいね。

…ん?その言い方やと
コーチはNGで私はOKなん?

美幸…
だまりよし!

世知辛い世の中どすなぁ…(2回目)
…数分後…

みぞおち部分が胸バンドの締めつけでなんか変な感じ…

胸バンドと心拍計がちゃんとリンクされたみたいやね。乙女の心拍計がちゃん表示されとるで。

今の乙女の心拍数は70回…
あ!73回に変わった!

じゃ、今からトレッドミルで走って心拍数を記録していくで。
最初は160m/分のペース、次は180m/分…って感じで、+20m/分ずつペースを上げてそれぞれ2分間ずつ走ってもらう。

実験で使われるマウスになったみたい…
というか私って、回し車で走らされるマウスそのものやん…

つべこべ言わんではよ準備!
ここでしっかりデータがとれたら、乙女がどれぐらいのペースで乳酸が出やすいのかが分かる。
いわゆる乳酸性作業閾値(LT)を調べられるんや

乳酸ってウェイトトレとか全力で走ったら出てくるやつですよね?

せやね。陸上長距離のような持久系スポーツでは、高負荷の運動でも乳酸が溜まりにくく処理する能力の高さがパフォーマンスに大きく影響する。

そして、どれぐらいのペースで血中の乳酸濃度が上がり出すかの境目(閾値)が分かると、その境目よりも上のペースでペース走をすれば、効率的に持久力アップできるっちゅうわけや。

なんか、トレーニングの7原則にあったオーバーロードの原則みたいやね。

よく覚えとるね。持久力を鍛える場合もある程度の負荷をかけないと持久力は向上しない。
そして、「ある程度」にも個人差がある(個別性の原則)から、自分がどのペースで走れば効果的な練習ができるかを調べるのは大切なことやね。

ほんなら説明もひとまず済んだことやし、実験始めるで!
…ということで、今回は乳酸性作業閾値(LT)と心拍数を使ったLTの大まかな調べ方についてまとめていきます。
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乳酸性作業閾値(LT)について
乳酸とは
スポーツの世界でいう乳酸とは、負荷の高い運動をしている時に出てくる物質を意味しているのが大半です。よくスポーツをしている人やウェイトトレーニングをしている人だと、「乳酸は筋肉が疲れてくると貯まる疲労物質(疲労の元)である」と考えている方も多くおられます。
なお、実際に乳酸は1929年に行われた研究で疲労物質であると提唱されていましたが、現在では乳酸は疲労物質ではなく、体内で発生後、エネルギーとして再利用されることが判明しています。
スポーツ科学の世界は他の分野と比較してまだまだ歴史が浅いので、これからも新事実が出てくる可能性は十分にあると言えます。

ちなみにやけど、ヨーグルトでお馴染みの「乳酸菌」とここで登場した「乳酸」は全くの別物やで。(ほんまに、どうでもいい豆知識やけど…。)
乳酸性作業閾値(LT)とは
負荷の高い運動を続けると、血中の乳酸濃度が徐々に上昇し始めるポイントが出ます。(グラフの青色と黄色の境目部分)
この、乳酸濃度がちょうど上がり始める境目のことを乳酸性作業閾値(LT [Lacteta threshold])と呼び、持久力を鍛えるトレーニング強度の目安として取り入れることで、より効果的なトレーニングになります。
なお、負荷が乳酸が出始めるレベルに満たない場合は、乳酸濃度は一定(1mmol/L付近、グラフの青い部分)のままで推移します。
ちなみに、LTに関連してAT(無酸素性作業閾値)という言葉も、有酸素運動レベルから無酸素性エネルギーも徐々に動員され始める運動強度を示す言葉として、LTと似たような意味合いで使われることもあります。

現在の研究で乳酸が疲労物質でないと判明していても、高負荷な運動をすれば血中乳酸濃度は上昇することに変わりはないから、自分にあった運動強度を調べるのに血中乳酸濃度を使うのは効果的。
乳酸が出始めるラインの負荷…陸上長距離やマラソンなら「負荷=ペース」でトレーニングをするのが一つの目安として考えられているんや。
参考:OBLAとは
血中乳酸濃度が4mmol/Lを超えたところ(グラフの赤いライン)を、「OBLA(Onset of Blood Lacatte Accumulation)といいます。グラフを見て一目瞭然ですが乳酸が出始めるLTよりも負荷は高くなります。
また、グラフのそれぞれの四角の形を見てもわかるように、青色の四角よりも赤色の四角の方が、運動強度が上がるにつれて濃度の上昇スピードも激しくなり、長時間の運動をすることが難しくなります。
ちなみにOnset of Blood Lacatte Accumulationを直訳すると「血中乳酸蓄積の開始地点」となります。

OBLAレベルのペースやと、LTよりも体にかかる負荷は大きくなるので、長時間続けることは難しい。
もしも、OBLAのペースで走れるように持久力鍛えたい場合は、まずはインターバルトレーニングをOBLAのペースに設定してみて、短い距離から走れるような練習から始めてみる、というのもやりかたのひとつやね。

まさかここで高校化学で必須のモル(mol/L)を見かけるとは…学校の勉強もちゃんとせなあかんなぁ…

化学以外でモルを使うことがわかって、化学のありがたさを理解できると、コーチとしては嬉しい限りやね。
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ランニング中の心拍数からLTを求める方法

ここからは、乙女の心拍数のデータを元に解説していくで。
徐々にペースを上げて走り、心拍数の変動をグラフに
心拍数から自分のLTを調べる場合は、各ペースごとの心拍数の推移を記録してグラフにしていきます。走る時間は最低でも3分間。走り終わって次のペースに移行するのはしっかり心拍数が平常時に戻るまで待つようにしましょう。
また、自分で決めたとおりのペースで走るのが難しい場合は、トレッドミルのように機械で設定して一定のペースで走り続けられる環境があると計測が楽になります。
なお、1人で行う場合は走っている最中のペースを記録するのが難しいのでまた、できれば計測は2人以上で役割分担して行うのがおすすめです。
LT以上の場合は心拍数は右肩上がりになる
LT以下のペースで走ると走行中の心拍数は横ばいになります。(黒矢印)。しかし、LT以上のペースの場合、心拍数は徐々に上がり続けて元の心拍数まで戻りません(赤矢印)。
なお、このグラフで注目すべきなのは心拍数の数値単体ではなく、心拍数の推移です。
心拍数は年齢や運動歴によって同じペースで走っても人それぞれ異なった数値になるのが自然で、早いペースなのに誰かと比較して心拍数が高かった(or低かった)を気にするのではなく、高い心拍数だけど横ばいのままだったとか、低めの心拍数だけど徐々に上がってきたというところに注目するようにしましょう。

上のグラフやと、乙女の場合240m/分のペースの場合、心拍数がはっきりと右肩上がりになっとるよね。そうすると、乙女にとっては240m~220m/分のペースの間にLTが存在している、という分析が出来るわけや。
参考:専門器具を用い血液を採取して調べる方法もある
中の人が過去にLTを調べたときは、専用の血中乳酸検査キットを使って、各ペースで走り終わったあとに針を親指に刺して血液をちょこっと採血(ほんの鼻血一滴分も無い)するものでした。
採取した血液をキットにおいて少し時間を置くと、血中乳酸濃度が数字で表示されるという仕組みでした。
指に針を刺すので多少痛いですが、あくまでも大量に出血するほどではなく、かさぶたも出来ないほどのすぐ消える小さな傷で済みます。献血とか注射による採血で「オエ━(´Д`|||)」っと吐きそうになる中の人でも全然大丈夫な実験でした。
ちなみに、一般ランナーで自分のLTを知りたいという方は、横浜市スポーツ医科学センターにて定期的にLT測定を定期的に行っています。
所要時間は90分ほど。料金は6200円(税込)となっています。(2017年10月時点)
参考:アスリートチェックサービス ランニング測定(LT) (横浜市スポーツ医科学センター)
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あとがき

トレッドミルの上ばっか走ってると地面に降りた時になんか変な気分になる…
なんか地面が動いてへんだけで不思議な感覚や…。

なんか、関空とかにある動く歩道が終わった瞬間「おっとっと…」ってコケそうになるのも似てるよね。

二人とも今日は慣れへんこと多かったけど、お疲れはん。
実際に普通の陸上のトラックを使うよりも、トレッドミルの方があちこち動きまわらへん分、実験をする方としては助かるんやけどね。

でも、この実験って専門機関でやるんやったら結構お金かかるんですよね。

せやね。もちろん自分でスポーツジムに入会したり、心拍計を買えば一人でもできなくもないけど、手間暇かかるし、どうしてもコスパは悪くなってしまうのはしゃーないね。

そんだけ手間暇かかる実験を私の大学のツテでやれたんやから、二人共なんか言うことあるやろ?

初めてコーチの大学生って設定が活かされた場面ですね。

やかましい!「設定」っていうな!(メタネタはあかんよ、マジで!)

もちろん、感謝もしてますけど、できれば手首でわかるタイプの心拍計が使いたかったです…

そればっかりは私にはどうにも…流石に国家予算云々を私の一存で決めることはできひんわ…

でも本当に欲しいんやったら貯金して買うんやで。
最近はネット通販で中古品とか型落ちで安くなってるのもあるからね。探せばお目当てのやつが見つかるかもしれへんで?

あんま安すぎるとそれはそれで不良品っぽくてなんか嫌やなぁ。

手首とはいえ実際に身に付けるものを中古で買うのは、なんか抵抗感があります…。

あんたら結構シビアやし、見るところはちゃんと見とる娘やねえぇ…
まぁ、胸バンドも「中古」って付くと、なんか嫌なのはわからなくはない…

へぇ~意外です!
コーチはてっきりそういうの気にしない人かと思っていました。

いややなぁもう。意外に思われることもあるけど、私の肌は繊細なの。
いわゆる敏感肌ってやつなんや。

…なるほど、敏感肌やと日焼け止めとか化粧でも苦労しそうですよね。

まぁ、日焼け止めは肌にあったやつを使うに限るね…。
それと化粧は…なんというか、その単純に面倒やからしてへんだけや…
…というか私みたいな女に化粧なんてしても意味ないからね………
あ、すまん、このことは気にせんといて

その…なんかごめんない。

(今一瞬コーチの闇を見たようなきがする…色々苦労してるから、あえて明るいキャラを演じとるんやろか?)
参考書籍
イラスト・ストーリー : シロカネ